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(2023年5月31日)
近年、過重労働や職場の人間関係によるストレスが原因で、メンタル疾患を発症する人が増え、社会問題の一つとなっています。
厚生労働省の調査によると、仕事で強いストレスを引き起こす事柄がある、と回答した労働者は53.3%と、2人に1人が仕事関連で強いストレスを感じている、という結果が出ています(令和3年労働安全衛生調査)。この調査からは、仕事に質や量を求められたり、失敗や責任などのプレッシャーがかかったりすることにストレスを感じる人が多いことが判明しています。
従業員の健康を保つことで生産性向上などを目指し、企業が率先して従業員の健康管理に取り組む考え方を「健康経営」と呼びます。人手不足が課題にあげられることも多い中小企業では、従業員の不調の原因が職場にあるにもかかわらず放置した場合、生産性が落ちるというデメリットを招いてしまうかもしれません。
反対に、健康経営に取り組めば、従業員の生産性向上、医療コストの削減、企業のイメージアップなどのメリットにつながると考えられます。職場のメンタルヘルス対策は、健康経営の面からみても非常に有効な取り組みです。
実際に、職場のメンタルヘルス強化を進めるうえで、何から始めればよいのでしょうか。
厚生労働省の指針では、職場のメンタルヘルスケアを強化するには、次の4種類のケアを継続して実施することが大切とされています。
①従業員本人によるセルフケア
②管理監督者が率いるラインによるケア
③企業内の産業保健スタッフなどによるケア
④企業外の専門家や機関などによるケア
これら4種類のケアが適切に実施されるよう、各担当者が連携をとりながら取り組みを推進することが大切です。
(詳細は「メンタルヘルス対策(心の健康確保対策)に関する施策の概要」参照)
4種類のケアを実施するうえで、まず必要なのが個人個人のストレス状態の把握と職場環境についての把握・改善で、そこで役立つのが「ストレスチェック」です。
現時点では、労働者が50名未満の事業所では、ストレスチェックの実施は努力義務となっていますが、ストレスチェック制度を活用し、職場環境等を評価して問題点を把握するとともに、その改善を図る事でメンタルヘルスの悪化を防ぐ一次予防となります。
また、二次予防として、メンタルヘルス不調を早期に発見し治療につなげるための対策も重要です。
二次予防のためには、従業員が相談できる体制として、産業医や産業保健スタッフに相談できるよう、相談窓口を明確にしておくような組織作りも必要です。
労働者のメンタルヘルス不調は、仕事の質・生産性、ひいては業績にまで影響を与えるため、早めの対策が必須です。定期健康診断の実施だけでなく、メンタルヘルスの対策を行い、健全な組織運営・生産性の高い組織を目指しましょう。
(2023年5月25日)
令和4年12月23日に、令和5年度税制改正大綱が公開されました。
数ある改正内容の中にインボイス制度に関する内容も含まれています。
その中で、今回はいわゆる『2割特例』について解説を行おうと思います。
2割特例について
こちらは小規模事業者へ向けた負担軽減措置となっており、それまで免税事業者であった事業者が令和5年10月1日からインボイス発行事業者へ変更した場合、消費税の納付税額がその事業年度の課税売上税額の2割に軽減することが出来ます。
抑えるべきポイントは以下の通りです。
順を追って解説をしていきます。
まず、このいわゆる『2割特例』は納税者が負担することとなる消費税額を、およそ3年間課税売上税額の2割で良いとする特例です。
特に注目すべき内容は、消費税の納税額が課税売上高の2割で良いという点と課税売上高についての税額計算のみで良いという点です。
通常消費税の納税額の計算において売上と仕入の2つの計算が必要となりますが、この特例では売上のみの計算で良いため、事務負担はかなり軽くなります。
次に、申告の際、今までの納税額の計算方法にこの『2割特例』が追加されるかたちになりますが、消費税の還付を受けられる事業者や簡易課税方式を選択し第1種事業(卸売業)に相当する事業者以外は2割特例を選択する方が税負担が軽くなると考えられます。
『2割特例』を受けるかどうかは消費税の申告のたびに任意選択できますので、事前に有利となる納税額の計算方法についてシミュレーションを行うことをお勧めします。
そして、この特例の対象期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間となっておりますが、例えば1月~12月が計算期間である事業者は令和8年12月31日に終了する課税期間までが対象期間になります。
なお、以下のような場合は、この特例の対象外となります。
②については、例えば基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合や基準期間がない事業年度開始の日における資本金の額が1,000万円以上である法人(新設法人)である場合、課税事業者選択届出書を提出した場合や高額資産を取得して仕入税額控除を行った場合などが挙げられます。
②に関連して、令和5年10月1日以前に課税事業者選択届出書を提出し課税事業者となってしまう場合は、その課税期間が終了するまでに課税事業者選択不適用届出書を提出することで事前に効力が発生していた課税事業者選択届出書を失効できることとされています。
勿論インボイス発行事業者登録とは関係なく課税事業者となる場合を除きますが、予め課税事業者選択届出書を提出していた場合でも上記の手続きを行えば『2割特例』を受けられる場合があります。
以上が令和5年税制改正大綱にて公開された『2割特例』についての概要となります。
多くの小規模事業者にとってこの特例は事務負担と税負担の軽減に繋がるものになりますので、今一度この特例を受けることが出来るのか確認を行い、インボイス制度に向けて準備を進めましょう。
(2023年4月30日)
社会保険料は、毎月の報酬(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に保険料率をかけて計算されますが、特別手当や年末年始手当といったイレギュラーな手当については、毎月の報酬・賞与のどちらに含めるか判断に迷うことがあります。
最近の年金事務所の調査においては、賞与に関する指摘が多く、賞与支払届の提出等の是正が必要となるケースが増えています。
厚生労働省による通達から、毎月の報酬・賞与区分の違いについて考えていきます。
(1)毎月の報酬
社会保険において、標準報酬月額の対象となる報酬は、次のいずれかを満たすものです。
(ア)労働者が自己の労働の対償として受けるものであること。
(イ)事業所から経常的かつ実質的に受けるもので、労働者の通常の生計にあてられるもの。
例えば、基本給のほか、能率給、役付手当、宿直手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、時間外手当といったものが該当します。
(2)賞与
社会保険において、標準賞与額の対象となる賞与は、賃金、給料、俸給、賞与等の名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち年3回以下の回数で支給されるものです。
年4回以上支給される賞与については、標準報酬月額の対象となる報酬とされ、標準賞与額の対象となる賞与とはされません。
つまり、上記(1)と(2)をまとめると、下記のような違いとなります。
「労働の対償として受けるもの」、あるいは「労働者の通常の生計に充てられるもの」として支払われるもので、
●年に支払われる回数が4回以上のもの・・・毎月の報酬
●年に支払われる回数が3回以下のもの・・・賞与
となります。
従って、冒頭の給与規程等に支給時期が定まっていない特別手当や年に1回支給される年末年始手当は「賞与」に該当し、賞与支払届の提出が必要となる可能性が高くなります。
永年勤続表彰については、平成18年に社会保険審査会が賞与に該当しないという裁決を示していますが、「当該表彰金は、一定の勤続年数に達した者に対して労務の内容に関係なく一律に支給されており、永年勤続特別休暇の付与に伴う資金援助の性質をもつ」といった個別事情から、賞与に該当しない判断されており、ケースよっては賞与に該当する可能性も考えられます。
大入袋といった臨時的かつ恩恵的なものは、毎月の報酬・賞与のいずれにも含まなくてよい事とされていますが、これは、かなり狭義に解するものとされています。
「労働の対償として受けるもの」、あるいは「労働者の通常の生計に充てられるもの」については、毎月の報酬・賞与のいずれかに該当しますので、イレギュラーな手当等を支給する際は、適切な対応が必要になる事をご留意ください。
(2023年4月20日)
インボイス制度において、一定の事項を記載した「帳簿」及び適格請求書発行事業者が交付する「適格請求書」などの請求書等の保存が仕入税額控除の要件ですが、請求書等の交付を受けることが困難である等の理由により、一定の事項(※1)を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる特例が設けられています。図1は国税庁で発表されている帳簿のみの保存が認められる取引です。今回は図1内の出張旅費の取り扱い(図1①②⑨)に限定して説明していこうと思います。
図1
出典:国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-13.pdf
※1一定の事項・・・①課税仕入れの相手方の氏名又は名称、②課税仕入れを行った年月日、③課税仕入れに係る資産又は役務の内容④課税仕入れに係る対価の額⑤帳簿のみの保存が認められる取引に該当する旨
従業員等の出張旅費を事業者が負担する場合、切符代や宿泊代等については、事業者側が誰と決済するかによって適用できる特例が異なります。
【事業者側が事業者等と直接決済する場合】
事業者側が業者と直接決済する場合、金額が3万円未満であれば【図1】①の特例(=公共交通機関特例)が適用され、支払金額が3万円以上の場合は条件を満たすことで【図1】②(=回収入場券特例)の特例が認められます。
例1)
事業者が、従業員の出張に必要な新幹線の切符(2万円)を事前に購入した場合、決済相手が鉄道事業者でかつ、金額も3万円未満であることから、【図1】①の特例を適用して帳簿のみの保存で仕入税額控除を受けることができます。ただしホテル等の宿泊代つきましては金額に関わらず適用されませんのでご注意ください。
例2)
新幹線の切符代が3万円以上となった場合、【図1】②の特例の適用が可能です。ただし適用できるのは、入場券等が改札機等に回収されてしまい手元に残らないケースに限定されます。
【事業者側が従業員と決済する場合】
事業者側が従業員等と決済をする場合は【図1】⑨の特例(=出張旅費特例)が適用されます。この特例では、通常必要とされる範囲であれば金額・名目に関わらず帳簿のみの保存で仕入れ税額控除を受けることが出来ます。
例3)
従業員が出張先で利用した新幹線の切符(3万5千円)と、ホテルの宿泊代(1万円)を、出張後に事業者と精算する場合を想定します。いずれについても事業者側が従業員等と決済するという点から、新幹線の切符代が3万円以上であっても、【図1】⑨の特例が適用されます。また、事業者側が業者等と直接決済する際には認められなかったホテル等の宿泊代につきましても帳簿のみの保存で仕入税額控除を受けることができます。ただし【図1】⑨の特例に金額の上限は設けられていませんが、その出張に際して通常必要と認められる範囲内でなければなりません。また、従業員が保有する法人カードで決済した場合は【図1】⑨の特例には該当せず、決済先から交付されるインボイスの保存が必要となるためご注意ください。
以上がインボイス制度における出張旅費の取り扱いとなります。
交通機関ごとにインボイスへの対応の仕方が異なりますので、随時確認するようにしましょう。
税務・労務・経営に関する事でお困りの方はこちらのお問い合わせフォームから、お気軽にお問い合わせください。
(2023年3月31日)
①老齢年金の繰下げ制度の一部改正
2020年年金改正法による国民年金法・厚生年金保険法の改正で、2022年4月から老齢年金〔老齢基礎年金・老齢厚生年金〕の繰下げ受給の上限年齢が70歳から75歳に引き上げられ、年金の受給開始時期を75歳まで自由に選択できるようになりました。
これを踏まえて、2023年4月から、次のような制度も施行されます。
70歳以降も安心して繰下げ待機を選択することができるようにするため、70歳到達後に繰下げ申出をせずにさかのぼって年金を受け取ることを選択した場合でも、請求の5年前の日に繰下げ申出したものとみなし、増額された年金の5年間分を一括して受け取ることができるようになります。
例)71歳まで繰下げ待機し、71歳時点で、繰下げ申出をせず、年金(本来の年金額180万円)を請求する場合、次のような形で受給できるようになります。
〔参考〕上記のケースで、71歳時点で、繰下げ申出する場合
(日本年金機構/資料)
②在職老齢年金の計算に用いる「支給停止調整額」の改定
在職老齢年金の計算に用いる「支給停止調整額」は、名目賃金の変動に応じて改定が行われます。
厚生年金保険における在職老齢年金制度について、支給停止が開始される賃金と年金の合計額の基準となる額(支給停止調整額)が、「47万円」から「48万円」に改定されます。
~2023年3月
①賃金(賞与込み月収)+ ②老齢厚生年金の月額が、 ・「47万円」以下 ➔ 年金の支給停止なし ・「47万円」超えるとき ➔ 年金を支給停止(超える額の2分の1を支給停止) |
2023年4月~
①賃金(賞与込み月収)+ ②老齢厚生年金の月額が、 ・「48万円」以下 ➔ 年金の支給停止なし ・「48万円」超えるとき ➔ 年金を支給停止(超える額の2分の1を支給停止) |
〈補足〉
①上記の支給停止の仕組みは、令和4年4月施行の改正で、60歳台前半の在職老齢年金と
60歳台後半・70歳以上の在職老齢年金に共通のものとなっています。
②年金は、年6回に分けて支払われ、支払月は、2月、4月、6月、8月、10月、12月になっています。それぞれの支払月には、その前月までの2か月分の年金が支払われます。
当改定は、4月分の年金から適用となりますが、実際に支払われるのは6月となります。
(2023年2月28日)
年度末に向け、36協定の締結に係る準備を始める企業も多いかと思います。そこで今回は、36協定にまつわるよくある質問を紹介します。
労働基準法では労働時間の原則を1日8時間、1週40時間としており、この法定労働時間を超える労働(残業)を禁止しています。
現実には多くの企業で、法定労働時間を超える時間外労働を命じているかと思いますが、労働者に時間外労働を命じるためには、あらかじめ36協定(時間外・休日労働に関する協定届)を締結し、所轄労働基準監督署に届出を行う必要があります。
1.提出期限
36協定の届出をする際は、「起算日」を記載することで対象期間を定めます。
たとえば、2023年度の4月から時間願労働や休日労働をさせたい場合、起算日を4月1日とし、この日から残業時間のカウントを始めます。
36協定の提出期限は、記載した起算日の前日です。仮に提出が遅れた場合は、提出日から有効とされ、起算日から提出日前日までは無効(残業させられない)となります。過半数代表者との締結も必要ですので、早めの準備が必要です。
2.記載する人数
36協定に記載する労働者の人数は、在籍している労働者の人数ではなく、時間外労働・休日労働を行わせることが想定される人数を記入します。
締結後、協定の有効期間中に、入社や退職により記入した人数と実態が乖離したとしても再度締結して届け出る必要はなく、締結後に入社した労働者にも協定の範囲内で時間外労働や休日労働を命じることができます。
3.過半数代表
36協定を締結する際は、➀労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がある場合はその労働組合、②過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と、書面による協定をしなければなりません。
②の過半数代表者は以下の要件を満たす事が必要です。
・労働者の過半数を代表していること
⇒正社員だけでなく、パートやアルバイトなど事業場のすべての労働者の過半数を代表していることが必要です。
・36協定を締結するための過半数代表者を選出することを明らかにした上で、投票、挙手などにより選出すること
⇒使用者が過半数代表者を指名した場合、36協定は無効になります。
・労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者でないこと
尚、労働者の過半数代表者等が協定の有効期間中に退職するケースがありますが、退職したとしても締結をした36協定はその有効期間中において有効であり、36協定を再度締結したり、届け出たりする必要はありません。
36協定を作成する際に、流れ作業となってしまい、深く内容を見直さず前年と同じ内容で、日付と人数だけ確認して作成しているケースもよく見受けられます。会社は協定した内容を違守する必要があり、協定内容を超えて時間外労働を命じることは、労働基準法違反となります。そのため、協定する内容や数字にどのような意味があるのかをしっかりと理解し、確認した上で作成を行い、締結することがとても重要です。
(2023年2月2日)
給与のデジタル払いとは、企業が銀行の口座を介さず、スマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用して振り込むことができる制度のことです。
近年、生活のさまざまな場面でキャッシュレス決済が普及し、現金をあまり利用しないという人も増えています。このような動きに合わせて、2023年4月1日から従業員への給与の支払いも〇〇ペイといった資金移動業者の口座に支払うことができるようになります。
会社が従業員に支払う給与は、「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と労働基準法で規定されています。その例外として、従業員から個別に同意を得て、従業員が指定する本人名義の預貯金口座や証券総合口座に振り込むことが認められています。
給与のデジタル払いが可能になることで、給与の支払い方(従業員にとっての給与の受け取り方)の選択肢が増えることになりますが、デジタル払いを行うかは、会社が資金移動業者へ支払う手数料がどの程度か、また、手続きの手間がどの程度になるかによって判断することが必要です。
以下は主なQ&Aです。(厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」より引用)
Q1. 賃金のデジタル払いは必ず実施しなければならないのでしょうか。引き続き、銀行口座等で受け取ることができなくなるのでしょうか。
A. 賃金のデジタル払いは、賃金の支払・受取の選択肢の1つです。
労働者が希望しない場合は賃金のデジタル払いを選択する必要はなく、これまでどおり銀行口座等で賃金を受け取ることができます。また、使用者は希望しない労働者に強制してはいけません。
賃金の一部を資金移動業者口座で受け取り、残りを銀行口座等で受け取ることも可能です。
Q2. 賃金のデジタル払いを開始するために、事業場で必要な手続は?
A. 事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者と、賃金デジタル払いの対象となる労働者の範囲や取扱指定資金移動業者の範囲等を記載した労使協定を締結する必要があります。
その上で、賃金のデジタル払いを希望する個々の労働者は、留意事項等の説明受け、制度を理解した上で、同意書に賃金のデジタル払いで受け取る賃金額や、資金移動業者口座番号、代替口座情報等を記載して、使用者に提出することが必要になります。
Q3. 賃金のデジタル払いを選択するために留意すべき事項は?
A. 労働者は、資金移動業者口座は「預金」をするためではなく、支払や送金に用いるためであることを理解の上、支払等に使う見込みの額を受け取るようにしてください。
その他の留意事項は、同意書の裏面に記載されています。
使用者は、労働者に対して賃金のデジタル払いを賃金受取方法として提示する際は、銀行口座か証券総合口座を選択肢としてあわせて提示しなければいけません。また、労働者に対して、同意書の裏面に記載された留意事項を説明してください。
同意書の様式例は厚生労働省のHPで公開されています。
※厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」
(2022年12月28日)
労働基準法において、法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を超える時間外労働(法定時間外労働)に対して、使用者は25%以上の率で計算した割増賃金(残業代)を支払わなければならないと定められています。
2010年の労働基準法の改正により、この割増賃金の率が引き上げられ、1か月60時間を超える法定時間外労働に対して、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金の支払いが必要になりました。
法改正の当時、中小企業への適用は当面の間猶予されていましたが、2023年4月より、中小企業においても割増賃金率の引き上げが適用となります。
割増賃金率引き上げまでに必要な対応を確認します。
1.時間外労働の削減
今回の割増賃金率の引き上げは、あくまでも月60時間を超えた部分の割増賃金が対象ですが、時間単価が1,500円の場合、割増賃金率が25%から50%に変わることで1時間当たりの賃金額は1,875円(25%)から2,250円(50%)となります。
長時間労働をしている従業員が多い会社にとって、影響は決して小さいものではありません。
長時間労働の防止および人件費の増加という観点から、企業はできるだけ時間外労働を削減しておくことが必要になります。
2. 就業規則(賃金規程)の変更
割増賃金率は、絶対的必要記載事項の為、就業規則(賃金規程)に必ず規定する必要があります。該当箇所を修正、従業員への周知・意見徴収、労働基準監督署への届出が必要です。
3. 給与計算システムの設定について
使用している給与計算システムの割増率の設定の変更も必要です。
4. 36協定の取り扱い
時間外労働・休日労働に関する協定(いわゆる36協定)において、特別条項を設ける場合、限度時間を超えた労働に係る割増賃金率を記載する欄があります。
2023年4月1日以降に割増賃金率が変更となりますが、36協定には月60時間を超えた割増賃金率を記載する必要はないため、協定期間が2023年4月1日をまたぐ場合であっても、届出をし直す必要はありません。
5. 代替休暇の活用について
労使協定を締結することで、割増賃金率の引き上げ分(25%)の支払いに代えて代替休暇を与えることができます。代替休暇の対象となるのは月60時間超の時間外時間となりますので、時間外労働が多い場合は制度導入も検討が必要です。
時間外労働削減の前提として、会社は労働時間を適正に把握することが必要です。適正な労働時間を記録するように社内教育を行ったり、労働時間の記録とパソコンの使用記録など労働実態との乖離がないかを点検したりするなどの取組も行いましょう。
また、2020年4月1日より賃金請求権の消滅時効期間が延長され、2年から5年となりました(ただし当面の間3年)。残業代を正しく計算していないと、最大3年分の未払い残業代を請求されるリスクを抱えることとなります。
残業代の不払いは、労働基準法の規定により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象となりますので、しっかりと各種対策やリスク予防策を講じることが大切です。
(2022年11月30日)
介護休業は、負傷や疾病、身体もしくは精神の障害などの理由から2週間以上「常時介護」が必要な家族(配偶者、父母、配偶者の父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫)を介護する場合に取得できる休暇です。
要介護状態にある家族1人につき3回まで、通算93日まで取得でき、休業期間中については経済的支援のため、介護休業給付金の支給を受けることができます。
しかし、介護休業は育児休業とは異なり、社会保険料の免除制度がないため、健康保険料や厚生年金保険料の支払いは発生し続けます。
Q.取得するできる日数が93日は短いのでは?
A.介護休業というのは介護のためにずっと休み続けるための制度ではありません。
介護休業制度は、介護を要する家族を抱えた労働者が雇用を継続していくためには、少なくとも介護に関する長期的な方針を決めるまでの間、当面家族による介護がやむを得ない期間について、緊急的対応措置として、休業ができるようにすることが必要であるという観点から創設されました。
つまり、家族が介護を必要とする状態になった場合に、ケアマネージャーに要介護認定をしてもらったり、在宅で介護するのか、それとも介護施設に入居するのかを始め、介護サービスを選定したりといった、いわば介護を始めるための準備期間というのが介護休業の目的です。
介護休業によって、本人がつきっきりでなくても、働きながら介護ができるような体制を整えることが重要です。
介護休業は育児休業と比較して、従業員への制度の内容浸透が十分でない可能性があります。 従業員が家族の介護の問題を1人で抱え込まないように、厚生労働省のホームページにある両立支援ガイドなどのツールを活用しながら、情報提供をしていきましょう。
(2022年11月28日)
令和4年10月11日より全国旅行支援が開始したことで「息抜きに旅行でもどうだろうか」と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
会社では出張旅費に充てるものとして使われる場合もあるかと思います。
今回はこの制度に関わる税金についてまとめていきます。
【要点】
・個人の方は割引額・クーポン券額が一時所得の対象となり、一時所得は50万円を超えなければ課税されない
・一般的な給与所得者は給与以外の所得金額が20万円以下であれば確定申告をする必要はない
・法人は原則として割引前の金額で経費計上をし、役員・従業員の方へ割引後の金額で精算した場合は割引額が雑収入となる
【基本的にGoToトラベルと同じ課税関係】
以前に新型コロナウイルス感染症の経済対策として『GoToトラベル』・『GoToイート』が行われましたが、全国旅行支援制度も同じ課税関係となります。
『個人・法人』の2つに分けてまとめていきます。
[個人]
個人の方でキャンペーン対象の旅行商品を購入した場合は、国から補助される旅行代金の割引額やクーポン券額は一時所得の対象となります。
この一時所得に関する収益の計上時期については、以下の通りです。
・旅行代金の割引額 ➡ 旅行代金相当額の充当後の額の支払い完了時(=旅行終了時)
・クーポン券 ➡ 使用した時
なお、一時所得は特別控除として50万円が控除されますので、その年の一時所得合計が50万円を超えなければ所得税が発生することはありません。
※控除:課税対象額を減らす
▽ 一時所得の課税所得金額=(一時所得に関する収入金額-そのためにかかった経費-特別控除50万円)×1/2
また、会社に勤めている方が個人的にキャンペーンを利用した際、基本的には以下の3つの要件全てに当てはまる場合は給与所得と退職所得を除いた所得が20万円以下であれば課税されません。
<3つの要件> |
・収入は1か所の勤務先から支給される給与のみ ・その給与収入は2,000万円以下 |
役員・従業員が出張でこのキャンペーンを利用した場合ですが、法人が旅費として経費計上する金額は割引前の金額となります。
理由としては「旅行会社が旅行代金を値引きしたわけではない」からです。経理処理は以下の2パターンあります。
例) 割引前金額:25,000円 割引額:8,000円 |
1 法人から役員・従業員へ割引前の25,000円で精算した場合 旅費交通費 25,000円 / 現預金 25,000円
2 法人から役員・従業員へ割引後の17,000円で精算した場合 旅費交通費 25,000円 / 現預金 17,000円 雑収入 8,000円 (消費税対象外) |
取引先の手土産代としてクーポン券を利用した場合も同様の扱いとなります。
収益の計上時期は、個人の方の場合と同様のタイミングです。
全国旅行支援については以上が要点になります。
効果的にこのキャンペーンを利用しましょう。
(2022年11月4日)
2022年度の地域別最低賃金の改定額が公示され、2022年10月1日以降発効されています。
主な地域別最低賃金は下記の通りです。 ※()内は前年の金額。
全国で30円~33円の引上げが行われ、全国加重平均額は961円となりました。
都道府県名 |
最低賃金時間額【円】 |
発効年月日 |
|
埼 玉 |
987 |
(956) |
令和4年10月1日 |
千 葉 |
984 |
(953) |
令和4年10月1日 |
東 京 |
1072 |
(1041) |
令和4年10月1日 |
神奈川 |
1071 |
(1040) |
令和4年10月1日 |
大阪 |
1023 |
(992) |
令和4年10月1日 |
下記のグラフは直近10年間の全国加重平均額の推移です。
10年前と比べると200円近く引上げられています。また、新型コロナウイルスの影響を考慮した2020年を除くと、毎年約3%の引き上げが行われています。
毎年引き上げが行われている最低賃金ですが、どのようにして決まるのでしょうか?
最低賃金法によると、「最低賃金は、労働者の生計費、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならない。」と定められており、①労働者の生計費、②類似の労働者の賃金、③通常の事業の賃金支払能力の3つの要素・観点から総合勘案して決定されます。
①労働者の生計費
憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権が保障されるよう、若年単身労働者の生計費や生活保護との整合性等を考慮しています。
②類似の労働者の賃金
厚生労働省で行っている「賃金構造基本統計調査」および「毎月勤労統計調査」等を参考に、その地方の労働者全体あるいは低賃金労働者の賃金水準等を基にしています。
③通常の事業の賃金支払能力
個々の企業の支払能力のことではなく、その業種等において正常な経営をしていく場合に通常の事業に期待することのできる賃金経費の負担能力を指しています。統計調査から業況判断及び経常利益の状況等の資料を参考にしています。
最低賃金は地域間格差等の課題もありますが、パートやアルバイト、外国人労働者等のすべての「労働者」に適用され、格差是正や貧困対策はもちろん、労働者全体の賃金の底上げにつながっています。
最低賃金の金額以下で労働者を働かせた場合には、使用者は罰則の対象となります。
(法定利息を加算した未払い賃金の支払いに加えて50万円以下の罰金)
月給者については1時間あたりの賃金額を算出が必要ですので、最低賃金引き上げの際は、確認するようにしましょう。
インボイスとは
令和5年10月1日よりインボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始されます。インボイス(適格請求書)とは、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝えるものであり、所定の記載要件を満たした書類やデータのことを言います。
インボイス制度下で求められること
インボイス制度では、現行の区分記載請求書保存方式に加えて以下の記載が必要です。
① 「課税事業者の登録番号」
② 「税率ごとに区分して合計した適用税率」
③
「税率ごとに区分して合計した消費税額等」
以上の追加項目の中で注目すべきポイントは①「課税事業者の登録番号」です。この番号を発行するためには適格請求書発行事業者になる必要があるのですが、適格請求書発行事業者はどの事業者でもなれるという訳ではありません。
適格請求書発行事業者になるには課税事業者である必要があり、令和5年10月1日からインボイスの発行を開始する事業者は令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。
インボイス制度開始後、「買手側」の対応として売手に対してインボイスの発行を求め、受け取ったインボイスを適切に保存しなければなりません。反対に「売手側」の対応として買手からインボイスの発行を求められた際には、求めに応じて交付する義務があります。
この場合、小売りや飲食店、タクシー等、不特定多数のお客様に対して行う取引では、インボイスに代えて、お客様の氏名又は名称を省略でき、適用税率又は税率ごとに区分した消費税額等のいずれかの記載があればよい、簡易インボイス(適格簡易請求書)の交付も認められています。
出典:国税庁ホームページより.(インボイス制度の概要|国税庁 (nta.go.jp))
インボイスにおける影響
インボイス制度開始に伴い大きな影響を受けるものの一つに消費税の仕入税額控除があります。
現行の制度では、仕入先が課税事業者か免税事業者かにかかわらず、全ての課税仕入れに対して一律に消費税が課税されているものとして仕入税額控除を行っております。そのため、仕入先の免税事業者は預かった消費税を納めていないにもかかわらず、仕入税額控除の対象としていることから国に納めるべき消費税が過少になっているのではないかという制度上の問題がありました。
そこで令和5年10月1日から開始される制度がインボイス制度です。
消費税の仕入税額控除を受ける要件としてインボイスの保存が必要になります。そのためインボイスを発行しない事業者との取引に関しては仕入税額控除が適用されないため注意が必要です。
そこで現時点で免税事業者の方は選択を迫られることとなります。
主に一般消費者を対象に商品の販売やサービスの提供をしている場合は、お客様がインボイスを必要とする機会が少ないためインボイス制度の影響をほとんど受けないと考えられます。また、免税事業者との取引が中心の場合も、これまでに免税事業者であった方が新たに課税事業者にならない限り、ほとんど影響を受けないでしょう。
しかし、課税事業者が中心的なお客様である場合は大きな影響があると思われます。取引先の課税事業者は売手側が発行したインボイスがないと消費税の仕入税額控除ができず、控除できない分の消費税を負担することとなるからです。
そのため、免税事業者は課税事業者になることを選択し、適格請求書発行事業者に登録することも一考を要します。しかし、課税事業者になると、経理上の手間や消費税の申告納税義務も生じます。
経過措置の活用
なお、インボイス制度における課税仕入につきましては、インボイスがなくても以下の経過措置が設けられます。
期 間 | 割 合 |
---|---|
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで | 仕入税額相当額の80% |
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで | 仕入税額相当額の50% |
出典:国税庁ホームページより.(インボイス制度の概要|国税庁 (nta.go.jp))
そのため、課税事業者となるべきか判断に迷われた場合は、取引先の状況等を見ながら顧問税理士の方と相談するなどをして検討されるのがよろしいかと存じます。
(2022年9月30日)
年次有給休暇を付与する上で、実務上のポイントを確認します。
Q.年次有給休暇を付与するための要件は?
A. 雇入れの日から起算して6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して使用者は年次有給休暇を与えることが必要です。その後については、継続勤務1年ごとに前1年間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して使用者は年次有給休暇を与えることが必要です。
事業場の業種、規模に関わらず、また、パート、アルバイト等の呼称に関わらず、また、外国人技能実習生を含め、全ての事業場の労働者に適用されます。
Q.継続勤務とは?
A.継続勤務とは、労働契約の存続期間、つまり在籍期間です。その判断を要する場合には、勤務の実態に即して行うべきとされており、たとえば定年退職と嘱託再雇用とが日を置かずになされる場合には、労働関係が継続していることとなり、在籍期間に通算されることとになります。また、6ヵ月に満たない短期の契約であっても、契約を更新して6ヵ月をこえて継続勤務するときは、6ヵ月をこえて継続勤務した1年ごとに新しく年次有給休暇が付与されることになります。
Q.全労働日とは?
A.全労働日とは、労働義務が課せられている日のことで、就業規則等で定めた休日を除いた日数です。
ただし、下記については全労働日から除外されます。
①使用者の責に帰すべき事由によって休業した日
②正当なストライキその他の正当な争議行為により労務が全くなされなかった日
Q.8割以上出勤とは?
A.出勤日数(算定期間の全労働日のうち出勤した日数)を上記の全労働日で除して計算します。
出動日数には、休日出勤した日は除く一方で、遅刻や早退があったとしても、その日は出勤しているため、出勤日数に含めます。
尚、下記については、出勤したものとして取り扱い、出勤日数および全労働日数に含めて出勤率の計算をします。
①業務上の負傷・疾病等により療養のため休業した日
②労働基準法に規定する産前産後休業を取得した日
③育児・介護休業法に基づき育児休業または介護休業した日
④年次有給休暇を取得した日
例えば、算定期間においてすべて育児休業を取得していた場合、休業日数を全労働日に含み、出動したものとして取り扱う日数にも休業日数を含むことから出勤率は10割となり、実際に勤務した日数がないとしても年休の付与を行います。
Q.特別休暇等の取り扱いは?
会社独自の休暇である特別休暇や、育児・介護休業法による子の看護休暇・介護休暇を取得した日等については、法令での定めはないため、それぞれの会社で出勤率の計算の際にどのように取り扱うかを決めることになります。決定した内容は、就業規則等に規定する事をお勧めします。
尚、休職期間は、労働者の労働義務を免除している期間であるため、出勤率の算定においては出勤日数及び全労働日から除外するのが一般的です。
出勤率を計算した結果、8割要件を満たさなかった場合、その年については年休が付与されませんが、次の年に8割要件を満たした場合は、8割要件を満たさなかった年も勤続継続年数に含めて、付与日数が決まります。従業員にとって年休の付与や取得に対する関心は高いことから、誤りのないように管理しましょう。
(2022年8月30日)
育児介護休業法が改正され、2022年4月1日から段階的に適用されています。
今回の改正のなかでも大きなトピックのひとつが「産後パパ育休」です。
制度の内容について詳しく見ていきます。
Q. 産後パパ育休の制度概要は?
A. 子どもが生まれてから8週間のあいだで、そのうち4週間まで休業することができる制度です。
いわゆる育児休業とは別の制度であり、主に男性が取得する休業であることから、産後パパ育休と呼ばれています。正式には出生時育児休業といいます。
Q. 産後パパ育休の申出期間は?
A. 原則として産後パパ育休を取得する2週間前までに、社員は申し出ることを要件とすることができます。
産後パパ育休の取得に伴い、業務の引継ぎ等が必要な場合には、2週間前の申出では引継ぎ期間が不足することも予想されます。労使期間の締結を検討するとともに、そもそも急な取得の申出にならないように、従業員の育児休業等に係る意向を事前に確認しておくことなどが重要です。
Q. 産後パパ育休の対象期間と取得日数は?
A. 子どもが生まれてから8週間以内が対象です。
この8週間のなかで、4週間まで休業することができます。この休業は、2回に分割して取得することができます。
例えば、8週間のうち「第1週と第2週」を1回目の取得、「第7週と第8週」を2回目の取得とするような場合です。
ただし、産後パパ育休を分割して取得する場合、最初にまとめて申し出る必要があります。
Q. 産後パパ育休取得期間中の扱いは?
A. 取得期間中の社会保険料は免除になります。尚、2022年10月から要件が変わります。
尚、労使協定を締結していることが前提ですが。労働者が合意した範囲内で産後パパ育休中に働くことができるようになります。
ただし、就業可能日数については上限があるのでご注意ください。
【産後パパ育休中の就業可能日数】
男性の育児休業の取得が促進されるにつれ、夫婦で育児することも増え、育児から手が離れ、副業を考える従業員が出てくるかもしれません。育児休業中に他の会社で勤務することを認めるのか、育児休業取得前に説明しておくことが必要になるでしょう。
2022年1月5日 12:00
2021年12月10日、自由民主党による令和4年度税制改正大綱が公表されました。その中で注目を集めたものの一つが、2022年1月より施行される電子帳簿保存法の猶予規定についてです。
現行の規定では帳簿書類や取引関係書類はすべて紙で保管することが原則となっています。しかし、日本政府がデジタル化を推進する中で、電子取引に関する書類(メールで送られた請求書など)についてはデータのまま保存するように求められたのが電子帳簿保存法です。ただ、電子取引については紙での保存を一切認めず、ストレージサービス等の利用を前提としているような厳格で煩雑な要件が求められる一方で、要件を満たしていないと青色申告取り消しの可能性が取り沙汰されるなど、その運用について非常に不安視されていました。
幸い、要件不足によってすぐ青色申告の取り消しにはならないというQ&Aが発表されましたが、改正に対応する十分な時間を確保できないという声が多かったこともあり、令和5年12月31日までの2年間はデータ保存とあわせて紙での保存も認められるようになる見通しです。(ただし、保存要件を満たすことができないやむを得ない事情があると認められ、税務調査時に出力書面による提示が求められるなど一定の要件はあります。)
この騒ぎの中で、あえて紙ベースの取引に戻って電子取引をなくそうという動きが一部で見られました。例えば、アマゾンなど紙の請求書が発行されないインターネット取引をやめ、紙の請求書が発行される別の事業者から購入するというものです。確かに、法律に対応するためだけの余計な手間を省き、本業に集中するという意味ではあながち間違った方法とは言えません。しかし、電子帳簿保存法の改正をデジタル化という大きな流れの中でとらえると、紙への回帰はいわばその場しのぎであり、最善の方法ではないと考えます。電子帳簿保存法の改正は電子取引データの保存に焦点があたりがちですが、スキャナ保存の要件は逆に緩和されており、うまく運用できればほとんど全ての書類をデータで保存することも可能になります。膨大な書類の山を7年間(青色欠損金額等が生じた事業年度については10年間)も保存するためのスペースを確保する必要もなくなるのです。過渡期であるがゆえに逆に不便に感じる点もあるかと思いますが、これを電子化による業務効率化のチャンスと捉え、業務フローを見直すことで業績の改善につなげていきましょう。
(2022/1/5 K.Y)
2020年2月3日 12:00
平成27年の相続税法改正により、基礎控除額が引き下げられました。
その結果、相続税の申告件数は改正前よりも増加しています。
相続税申告が行われた場合、そのうちの3割程度で税務調査が実施されているそうです。
更に、相続税の税務調査が行われた場合、そのうちの約8割で申告漏れ等の指摘がなされるとのこと。
そこで今回は、相続税の税務調査で申告漏れの指摘を受けやすい論点である「名義預金」についてポイントをお伝えします。
1.名義預金とは?
名義預金とは、
形式的には被相続人の配偶者や子などの親族名義になっている預金であるが、
実質的には被相続人のものであり、単に親族等の名前を借りているにすぎない預金のことです。
2.名義預金の相続税申告における取り扱い
相続税の申告においては、その財産が被相続人のものであるか否かを形式ではなく実質で判断する必要があります。
そのため、仮に被相続人以外の親族名義の預金であっても、実質的に被相続人の財産であると判断される場合には、相続税申告の対象に含める必要があります。
3.名義預金か否かの判断基準
名義預金か否かについては、以下のような判断要素を基に総合的に判断されます。
・その預金の資金源は誰のものか
・その預金の管理・運用は誰が行っているか
・当事者間での贈与の有無
・その預金から生じる利益は誰に帰属しているか
・被相続人とその預金の名義人、管理・運用者との関係
・その預金がその名義人の名義となった経緯
4.へそくりについて
専業主婦が、夫から生活費として渡された金銭の余剰分を貯蓄した場合(いわゆるへそくり)、
その財産は夫婦の共同生活の基金と考えられ、被相続人である夫の財産として扱われますので、こちらも留意が必要です。
5.名義預金であるとの指摘を受けないための事前の対策
親族間で贈与された財産であることを主張するのであれば、上記の判断基準に照らし、少なくとも以下のような対策をとることをご検討なさってはいかがでしょうか。
・親族間の贈与であっても、贈与契約の書面を交わす(贈与の都度)。
・預金口座の管理・運用に必要な通帳、証書、登録印、キャッシュカードなどを名義人が所持する。
なお、株式や投資信託なども名義財産であるとの指摘を受ける可能性がありますので、名義預金同様にご留意いただく必要があります。
(2020/2/3 T.K)
2020年2月3日 12:00
1.消費税 課税事業者/免税事業者
期首資本金の額が1千万円以上の法人は、設立初年度から課税事業者となります。
免税事業者を選択できません。
資本金の額を決定する際に考慮してください。
2.「青色申告書の承認の申請書」の期限内提出
法人設立初年度の届出期限は、設立後3か月以内です。
期限内に提出しないと、設立初年度は白色申告となります。
白色申告の場合、青色申告の特典を受けられません。
青色申告の特典例:青色欠損金の繰越控除、税額控除等の特例適用
3.源泉所得税の納付
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出するまでは、すべての源泉所得税を翌月10日までに納付する必要があります。納付漏れにご注意ください。
(2020/2/3 T.K)
2019年12月7日 13:00
社長さんが会長さんになった際に退職金を支払うことがあると思います(分掌変更による退職金の支払)。ただ、退職金を支払う際は、“その役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められること”が必要です(法人税法基本通達9-2-32)。出社の頻度だけでなく、取引先との接待、金融機関や顧問税理士等との面談等から、各種議事録やHP等の会社組織図の記載、営業日誌や稟議書の決済欄、代表取締役時の名刺等の形式的な部分であっても気にする必要が出てきます。退職金を支払う際には、金額だけでなくその後の会社との関わり方も大事になってくるかもしれません。
(2019/12/7 I.K)
2019年12月7日 13:00
2013年12月の発表から早6年。経営者による個人保証はどうなっているでしょうか?東京信用保証協会は、下記のような要件が将来に亘って充足すると見込まれるときは、保証契約の必要性について検討することとしています。
①法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている。
②法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない。
③法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る。
④法人から適時適切に財務情報等が提供されている。
⑤経営者等から十分な物的担保の提供がある。
なかなか経営者保証について動きのない場合は、金融機関側からの視点に立って検討してみることもよいかもしれません。
(2019/12/7 I.K)
東京税理士会 |
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アクティベートジャパン税理士法人 尾﨑公認会計士事務所は TKC全国会会員です。 |